オーナーが「ピアノ調律師」のピアノ専門店です。ピアノのお困り事はご相談下さい。

アップライトピアノの整調



アクション部のネジ締め


ピアノの状態を、チェックした後に全てのネジを確認します。
アクションのネジは合計すると、450本ほど有ります。

撮影時は、修理のためハンマーバット部分を外した状態で、点検していますが、通常はハンマー部が取り付いた状態で行います。
金属製レールや木製レールに取り付いたネジは、締め付け強度を注意します。
木製レールのネジ締めは、締め始めを素手で行うのがネジを痛めないコツです。
金属レールのネジ締めは、緩める方向に回して溝をあわせてから回します。
何年も使うネジは、溝を壊さないように細心の注意を払います。

鍵盤調整

フロントブッシングクロスの調整


キーピン磨き
 フロントキーピンとバランスキーピンは、錆や汚れが無いように磨きます。
 磨いた後にはベンジン等で、綺麗に汚れや油分などを取ります。
 拭き取ったピンには、油分を塗布します。
 バランスホールには湿度が低ければ、テフロン系の微粉末を使用します。
鍵盤の傾き
 バランスキーピンを傾けて直します。
鍵盤の間隔
鍵盤調整
 バランス部とフロント部のブッシングクロスを、キープライヤー等で圧縮して調整します。
 フロントの隙は0.5mm・バランスの隙は0.2mmにします。
 バランスホールの調整は、鍵盤先端を持ち上げて静かに下りる程度に調整します。
 鍵盤の後端を持ち上げて、状態を見る場合もあります。

ハンマー弦合わせ

シャンクプライヤーにて


ハンマーの走り
 走りとは、センターピンと弦が、平行でない状態を言います。
 走りがあると、ハンマーは斜めに運動してしまいます。
 複数のハンマーを定規などで前後に動かした時、左右の間隔に変化の有るものが走っています。
 走りがある状態では、弦の間隔とハンマーの間隔が綺麗に揃えられません。
 ハンマーバットフレンジの裏側に、のり紙(切手のように、のりを塗布した紙)を貼って直します。

次にシャンクをシャンクプライヤーで暖めて、ハンマーが弦を垂直に叩くように調整します。
複数の弦を叩く時、ハンマーが弦に対して斜めになっていると綺麗な振動は得られません。
微妙に振動がずれて、互いの運動を緩衝してしまいます。

ハンマーの間隔を、弦に合わせます。
全てのハンマーが、等間隔になるようにします。
弦の間隔が悪い場合は、弦を移動します。
弦を移動できない場合は、ハンマーの間隔を優先するために、走らせる事も有ります。

打弦距離

打弦距離を測る


打弦距離とは静止状態のハンマーの先端から、打弦点までの距離です。
46±1mmが、基準です。
音色やタッチにより、この寸法を変えます。
打弦距離を決定するには、基準となるキーを決めて確認します。
基準キーは任意ですが、低音・中音・高音を確認します。
中音セクションの左端も確認すると、確実です。(この部分のシャンクが長い場合)
基準キーの鍵盤上面や鍵盤の深さ、レットオフ等の調整をします。
ハンマーがバックストップした後、キャッチャーをバックチェックが僅かに押し戻す余裕を作ります。
(働きまたは、ナッハドロックを作ると言います。)
この段階で慎重にしないと、後で全ての調整をやり直さなければならない事も有ります。

ロストモーション

ロストモーションの調整


ジャックのトップが、バットスキンの下に隙間無く収まるように調整します。
キャプスタンが低すぎると、鍵盤に遊びを感じます。
逆に高すぎると、スムーズにバットスキンの下にジャックが戻れません。
ジャックが戻れないと、次の打鍵が出来ません。
又形状が悪くて、戻りが悪い事もあります。
この場合は、バットスキンを滑らかにするか、張り替えなくてはなりません。
ジャックトップの形状が悪かったり、滑りが悪い事も有ります。
又、アクションの角度が悪い場合も、ジャックの戻りが悪くなる事があります。
最後に必ず、ゆっくり鍵盤を戻して確認をしましょう。
調整は、最初にキャプスタンの左右前後位置を調整します。
次にキャプスタンを、キャプスタンドライバーで回して揃えます。

鍵盤上面

ナラシ定規にて調整


鍵盤の高さを、口棒から21±1mmを基準に平らにします。
寸法はタッチや音色により、加減をします。
厳密には、鍵盤を1/2押し下げた時に、鍵盤上面が水平になることがベストです。
鍵盤の上面を完璧にしないと、全ての作業に影響をします。
経年変化を予想して、鍵盤の中央を僅かに盛り上げる事もあります。
鍵盤上面のことを、調律師は「ナラシ」と良くいいます。上面を均すからでしょうか?
調整は、ナラシ定規のサイズに合わせ、両端2キー位ずつ基準を作ります。
高い鍵盤は、バランスパンチングを抜いて正しい高さに調整します。
パンチングがない場合は、鍵盤下面をヤスリで削ります。
低いものには、パンチングを入れます。
パンチングの種類は、0.03mmから有ります。
最終確認は、鍵盤を横から眺めて鍵盤の凸凹を目視します。
ここでの調整は、バランスパンチングクロスの圧縮などで調整します。

鍵盤深さ

アガキ定規にて調整


鍵盤の深さを、上面から10±0.5mmを基準に平らにします。
(ピアノによっては、この基準通りできない事も有ります。) 鍵盤深さのことを、調律師は「アガキ」と良く言います。
写真で使用している治具を、アガキ定規といいます。
綺麗に揃えるには、アガキ定規を押える力を一定にします。
鍵盤の下には、パンチングクロスと言ってドーナツ型のクロスが入っています。
その下に、同じくドーナツ型の紙を入れて、調整します。
紙の厚さは、0.03mmまであります。
寸法はタッチや音色により、加減をします。
鍵盤の深さをも完璧にしないと、タッチや音色が揃いません。

レットオフ

レギュレティングボタンを調整


鍵盤を静かに押えると、ハンマーは限りなく弦に近づき、打弦しないで戻ります。
この運動は、ジャックがレギュレティングボタンに運動を制止されて回転運動をし、バットの下から外れるからです。
この運動を、レットオフと言います。
この位置を、低音が3mmで、中音は2.5mm、高音は2mmで調整します。
機種によっては、これよりも狭い事も有ります。
又、音色をそろえるために、変更する事もあります。
調整はレギュレティングスクリューを、専用の工具で回して揃えます。
目で見て揃えるため、見る角度を一定にする事が重要です。
写真では、もう片方の手で、ウィッペンを動かして調整しています。
(鍵盤を押し下げて、調整することも有ります。)

ダンパー総上げ

ダンパーワイヤーを調整


ダンパーは、弦の運動を静止させるフェルトです。
ペダルを踏むとダンパーロッドが連動して、一斉に動きます。
全てのダンパーが一斉に上がり、ペダルを戻すと同時に止音するように調整します。
ペダルを踏むと、弦から5~7mm上がるように調整します。
ダンパーフェルトの下部が先に接触する方が、音の止まりが良い場合もあります。
ダンパーの傾きは止音不良になるため、あらかじめ調整します。
傾きを直す時は、ダンパーストップレールや、ハンマーバット・ハンマーレールは外したほうが楽に出来ます。
フェルトの形状や硬さは、あらかじめチェックしておきます。

ダンパー始動位置

スプーンベンダーにて調整


ダンパーの始動位置調整は、ダンパースプーンを曲げて調整します。
手前からは見えない部品なので、全て感覚で行います。
打弦距離の1/2ハンマーが進んだところで、始動するように調整します。
高音部のダンパーは70キー辺りから、有りません。
従ってこの辺りのダンパーの始動位置は、タッチを優先して少々遅くする事もあります。

ストップレール調整

ジャックストップレール調整


ストップレールは、ジャックストップレールとダンパーストップレールがあります。
鍵盤を押えきったときにそれぞれの部品が、ストップレールから2mm程の隙を持たせます。
タッチにもたつきを感じたり、ショックを感じたりする場合は、その寸法を調整します。
又、レギュレティングレールとジャックストップレール一体型の場合は、特に注意する必要があります。 鍵盤が戻りにくい原因の一つになる事もあります。

バックストップ

バックチェックの調整


ハンマーが弦からはね返り、キャッチャーがバックチェックにくわえられる位置を調整します。
キャッチャーと平行になるようにバックチェックを調整し、左右位置、くわえ角度の調整をします。
弦から15~17mm(打弦距離の1/3)の位置になるように、調整します。
バックストップ位置が近すぎると行き詰った感じがし、遠すぎると早い連打が出来ません。
バックストップ位置は、ジャックとジャックストップレールの隙を充分注意します。
又、ジャックトップとバットスキンの隙も、充分考慮して調整します。
バックチェックが乱れている場合は、働きに関する調整ミスが有るかもしれません。
鍵盤上面や鍵盤の深さ、キャプスタンの位置、ロストモーションを再度確認しましょう。

ペダル調整

ラウド・ソフト・ミュートペダル


左からソフトペダル・弱音ペダル(ミュートペダル)・ダンパーペダル(ラウドペダル)です。
ソフトペダルは、アップライトピアノの場合打弦距離を、1/3縮めます。
打弦する距離を縮める事により、 音量を下げています。
ペダル突上棒とダンパーロッドの隙は、2㎜にします。ペダルが2㎜の遊びの後、働くようにします。

弱音ペダルは、フェルトを通して打弦するために、音が小さくなります。残念ながらこのフェルトを叩く感 触を感じてしまうので、
通常のタッチとは少々変わってしまいます。
フェルトの上下位置を、できる限り 打弦点に掛かる程度にします。
深く掛けすぎると、ダンパーペダルを使用したときに、隣の音まで発音 する事があり、音が濁ります。

ダンパーペダルは踏み込む事により、全弦からダンパーを開放します。
全てのダンパーが同時に上が って、同時に接弦する状態はとても難しい調整です。
特にハーフペダルをお使いになられる方の調整 は、苦労を致します。
又双方が一致しない場合は、どちらかを、優先する事も考えなくてはいけません。ペダルの遊びは、矢張り2㎜です。

総点検

総点検


最後に全キーを弾いてみて、不具合をチェックします。
どのキーを弾いても、同じように反応して同じように打弦の感触をつかめるかどうかを、確認します。
この段階では、音色は調整していないので、音色のむらによるタッチの違いは、できる限り感じ取らない事が、重要です。
ここまでの段階が、技術職の分野です。1/50㎜を手で感じられる用に訓練をします。


アクションの調整方法は、調律師によって違いが有ります。
上記の調整方法は一例であり、部分的にピックアップしたものです。
良いタッチと音を作るのはこれだけの調整で、終るものでは有りません。

 

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